退歩集|古法薪焼き・宋代蕉葉文椀(古法漆継ぎ修復を含む)

―― 手捏ね · 薪窯焼成 · 漆継ぎ · 三つの呼吸、三つの命

「退歩集」の“退”とは、後ろへ下がることではなく、
器の源へ、手仕事の原点へ、美の本質へと戻ること。

本作は宋代の 蕉葉文 を意匠とし、
静かで節度ある線は、装飾ではなく“宋の心”そのもの。

三昼夜の薪焼成で火痕と灰が重なり、
急激な温度変化で一道の亀裂が生まれた。
これは火からの試練であり、器に与えられた運命。

亀裂には古法の 漆継ぎ(うるしつぎ) により修復を施す。
漆は隠すためではなく、
破れに“光の道”を与えるためのもの。

手捏ねは土の最初の呼吸。
薪焼きは火の第二の呼吸。
漆継ぎは人が与える第三の呼吸。

亀裂は天の業、
継ぎは匠の心。
こうして器は、より深い完全へと至る。