退歩集|北宋・汝窯意匠の蓮弁文・紫砂杯(漆修復)

退歩集|北宋・汝窯意匠の蓮弁文・紫砂杯(漆修復)
—— 断続のあいだに、北宋の呼吸が見える

この小さな杯は、かつて北宋の光と影の中で眠っていた。
蓮弁の彫りは、刃を筆とし、浅く控えめに刻まれ、
まるで宋人が泥にそっと書き残した禅の余韻のよう。

それは破損を経験し、再び手に抱かれる運命も経験した。
裂け目は漆で継がれ、隠さず、飾らず、
時間の隙を新たな線として受け入れている。
修復とは元に戻すことではなく、
器が再び歩み続けるための道を開くこと——
北宋の気骨が、私たちの手によって受け止められ、延長されるかのように。

紫砂の温かく重厚な胎土は、汝窯の柔らかな蓮弁文と静かに呼応し、
古い文様は火痕と古色の中に浮かび上がり、
「退いてこそ古に入る」美意識を形づくる。
宋代に戻るのではなく、
宋が別の姿で私たちの時代へと届くのである。

これは歴史の裏側から歩み出てきた杯である。
その古さ、傷、そして継がれた瞬間は、すべて今日の呼吸となった。

退くことは後退ではない。
退くとは、技と心をいったん零に戻すこと。
そして歩むとは、泥と火のあいだから、
己だけの古道を再び歩き出すこと。